2018/07/04 日清食品社長に聞く「100年ブランド」の育て方―「ないと困る」若者増やす、デジタル、経営の根幹。

 「人生100年時代」と呼ばれるなか、発売から数十年たつロングセラーの食品や日用品も増えている。ただ、ロングセラーといえども、売り上げを伸ばし続けることは容易ではない。こうしたなか、日清食品は「カップヌードル」や「どん兵衛」といった発売後40年超のブランドで過去最高の売り上げを更新。マーケティングの陣頭指揮を執る日清食品の安藤徳隆社長に、「100年ブランド」の育て方を聞いた。

 「最大の課題は、会社を支えるブランドの高齢化だ」。安藤社長は語る。チキンラーメンで発売後60年、カップヌードル47年、どん兵衛42年……。一般的にブランドが誕生して衰退するまでのライフサイクルは30年程度とされるなか、日清食品の主力ブランドの大半が発売後40年を超える。

 ロイヤルカスタマーを離さないことでブランドの寿命を延ばすことはできるが、売り上げを伸ばし続けるロングセラー商品は少ない。2015年に就任した安藤社長が掲げるのが「100年ブランドカンパニー」。新鮮なイメージを保ち続けることで、100年たっても売り上げを伸ばし続けるブランドを目指すという。

■マインドシェアを向上

 ロングセラーの食品や日用品は知名度の高さもあって「当たり前のように自宅にあるが、若者にとっては数多くあるブランドのひとつにすぎない」(安藤社長)悩みを抱える。売り上げを伸ばすには、10~20代といった若い消費者にとって「なくてはならないマイブランド」になることが欠かせない。そのためには、若い消費者のマインドシェア(意識に占めるブランドの占有率)を高めるマーケティング戦略が重要という。

 従来のマーケティングは、テレビCMと店頭販促(POP)の両輪が一般的だった。テレビCMで見聞きしたブランドを、コンビニエンスストアやスーパーなどの棚でしっかりアピールすることで購入につなげることが定番の手法だ。だが、最近は若者のテレビ離れが指摘され、テレビだけでは中高生や大学生にブランドを浸透させることは難しくなっている。

 日清食品は「テレビCMを起点にしたマーケティング」(安藤社長)にこだわりながら、若者の利用が多いスマートフォン(スマホ)やSNS(交流サイト)を組み込むことで、若者のマインドシェア向上につなげようとしている。

 テレビCMの「空中戦」と店頭販促の「地上戦」をつなぐSNSを活用した「サイバー戦」で、若者の認知度向上につなげるデジタルマーケティングを展開。単に自社ブランドのテレビCMを流すのではなく、SNSなどで若者の間でブランドの話題が拡散することを心がけている。安藤社長は「これからの経営は(SNSなど)サイバー空間のマーケティングが経営の根幹となる」と強調する。

 カップヌードルでは17年春から「ハングリーデイズ」と題したキャンペーンを展開。「魔女の宅急便」や「サザエさん」といった国民的な人気を持つアニメのキャラクターを、現代風にアレンジしたイラストで独自に脚色したテレビCMを放映。こだわったのが「SNSなどネット上で拡散するための細かいネタの仕込み」(安藤社長)。15秒間のCMを視聴しただけでは、見つけることが難しいネタを画面の随所に盛り込むことで、若者がスマホで何度もCMを視聴したくなるようにしたという。

■ネタ探しで心つかむ

 例えば、CMソングを歌う人気バンド「バンプ・オブ・チキン」のメンバーがいたずら書きするイラストを掲載。0.1~0.2秒しか映らないため、何度も視聴したり、動画をコマ送りしたりしないと、見つけることは難しい。しかし、こうした「ネタ探し」がまずバンドのファンで話題となり、さらにネットで拡散していくことで、カップヌードルのブランドが若者に浸透。ネットで話題となるブランドに対して若者は共感する傾向もあり、マインドシェア向上にもつながるという。「1度のテレビCMでどれだけネット上で拡散できるかの効率性が重要となる」(安藤社長)

 サザエさんの回では、学園祭で高校生のマスオさんがサザエさんに公開告白するというシーンが登場。高校生の間で流行している学園祭の公開告白を取り入れることで共感度を上げるだけでなく、原作のアニメでもふたりのなれそめがデパートの公開お見合いだったというエピソードを基にすることで、原作をほぼ忠実に再現するというネタも仕込んでいる。

 ハングリーデイズの関連動画はネット上で1800万回以上再生された。ただ、ネット上の拡散で若者がブランドに愛着を持つようになっても、店頭での商品陳列や販促がしっかりしていないと、最終的には購入にはつながらない。あくまでもテレビ、ネット、店頭の連携が欠かせない。こうした一連のマーケティングでカップヌードルの17年の売り上げは過去最高を記録、特に高校生・大学生の喫食率は8ポイント上昇した。

 どん兵衛も17年からタレントの星野源さんと女優の吉岡里帆さんを起用したテレビCMを展開。「ムズキュン」な会話が若者の支持を集め、17年に売り上げが過去最高を更新した。

 サッカーワールドカップ前には「大迫半端ないって」をモチーフにして、日清食品所属のプロテニス選手、大坂なおみさんを起用した「大坂半端ないって」のCMも展開。流行語を先取りする“先見の明”を示した。「社員が楽しみながら企画に取り組むようになってきた」(安藤社長)ことが、話題の企画を絶やさないことにつながっている。社員一人ひとりの成果を評価する人事制度も導入し、持続的にブランドの競争力を高める体制構築を目指す。